絵に描いた餅だけ食べたかったけど今は棚からぼた餅でもいいと思ってる

節度を守らず書きたいことだけ。汚い感情も整理して書いておく自分のためのブログ。

2020年の今、思い起こすとあったかい気持ちになれる小説あげてみた

私は出勤したくない病になる朝が頻繁にあるタイプの社会人なのですが、鞄の中に文庫本が入ってればなんだか強い気持ちになれるタイプのオタクです。

星新一さんとか謎に半年間入ってたりした。読むという行為ではなく、そこにあるということで安心感を与えられるのが本のすごいところだと思っています。

 

加えて、自分が好きな本について考え始めるととたんに脳内ハッピーくそ野郎になれるので最近よくやっています。

 

現実世界の全然関係ない一コマで小説のある一節を思い出してすがすがしい気持ちになったり、急に周囲の環境がありきたりでない、かけがえのない大切なものに思えてくるからとても不思議で、でもこの感覚は一生なくしたくないなと思ったりします。

 

これが世にいう教養とか文化とかだったりするのでしょうか。私はまだまだ若輩者でものの分別がつかないのでよくわかりませんが、とにかく好きなものが物体としてそこにあることは幸せだなあと思うわけです。

 

 

(もちろん電子書籍も大好きですが。漫画と新書はほぼ電子書籍なのでRenta!とKindle大好き人間)

(だけどもたぶん私はハードカバーの単行本大好き人間。装丁とか初版のデザインとかこだわりがある種類の人間だと自覚)

(これ書きながら思ったんですけど、中身は一緒なのに装丁のデザイン昔の方が好きだったとかいうオタク外見主義すぎてめんどくさくないですか?)

(こういう傾向があるからジャニオタやってて「いかんせん顔がいいのだ」とか言ってるんだろうか)

 

そして以下は私が思い出して元気になる小説シリーズ。念のためあらすじも引っ張ってきて置いておこうと思います。

あと、軽率に何の配慮もなくネタバレが出てくるのでご承知おきください。

 

『重力ピエロ』伊坂幸太郎

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

 

 https://www.shinchosha.co.jp/book/125023

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。

 新潮社のサイコーにステキ(というか、この会社の人たちは心の底から本が大好きで、本に救われた経験があって、本の力を信じてるんだろうなって想像できるからすごくすき。※あくまで個人的な感覚の話。)なところは、単行本版と文庫版で紹介ページを分けていて、紹介文も異なるところ。

 

私は文庫の重力ピエロが初読だったので文庫版の紹介文を置いておきますね。

兄弟なんだけど遺伝的には完全な兄弟ではないことに深い悲しみを覚えるくらい、家族が大好き(だから本物の家族じゃない※血縁関係がないので。それが生きていけないと思うくらい辛い)って思えるのは

二人とも、英語だとspringだね、と伝える親の優しいまなざしに守られて育ったからかなあ。

「楽しそうに生きてればな、地球の重力なんてなくなる」

ってところも大好きなんですけど、私はお父さんが病床で「俺たちは家族だ」って伝えるシーンが思い出すだけで泣けちゃうほど好きです。

人はなにをもって家族になるのか。血縁関係がなくても、その誕生を喜び、慈しんで共に生きてきた時間があるなら俺と春は家族だよ、と言えるお父さんが本当にかっこいい大人です。

決して折れないしなやかなバネのように、うららかな春のように、すべての根源である泉水のように、今あるものを自分のなかで肯定的に受け止めて、生きていけたらきっといい時間を過ごせるだろうなあ、大人って楽しいかも、年とるの、心配しなくても大丈夫かも、と思わせてくれる小説です。私にとっては。

 

 

 

『きみはポラリス三浦しをん 

きみはポラリス (新潮文庫)

きみはポラリス (新潮文庫)

 

 https://www.shinchosha.co.jp/book/116760/

どうして恋に落ちたとき、人はそれを恋だと分かるのだろう。三角関係、同性愛、片想い、禁断の愛……言葉でいくら定義しても、この地球上にどれひとつとして同じ関係性はない。けれど、人は生まれながらにして、恋を恋だと知っている──。誰かをとても大切に思うとき放たれる、ただひとつの特別な光。カタチに囚われずその光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。

『格闘するものに○』も大好きなんですけど、三浦しをんさんのセンスが爆発してるのが『きみはポラリス』な気がするので私は三浦さんというとこれかな、と思っています。

もちろん『あの家に暮らす四人の女』も『愛なき世界』も好きです。書きながら思いましたが私、ここ3年中央公論新社の本を買うことが増えました。年齢や嗜好が御社のターゲット層に寄ってきたのかな。

 

螺旋プロジェクト(毎月イケてる作家さんが同じ設定(※古来から日本の歴史は山族と海族の対立によって成った、というもの)で単行本を刊行していく神企画。小説雑誌BOCがきっかけです)も大好きだった。

https://www.chuko.co.jp/boc/spiral.html

 

話が逸れましたが、何にせよ三浦しをんさんステキすぎません?

私は将来こんな大人になりたい、こんな暮らしをしていたいなあと思ったりします。江國さんは切なすぎて苦しいし、小川さんはあったかすぎて、川上弘美さんはスタイリッシュすぎるので・・・小説で読むからいいんだよなあ、と思ったりして、私は今のところ、あの家で暮らす四人の隣人のような生活をしてみたい。

 

(実際は、江國さん「そういえば結婚したんですよ」とか編集さんにお話されたりする方みたいだし、原稿用紙に手書きされると書いてあったので、私にとっては違う世界に住んでる神さまみたいな存在です)

(どうでもいいですが、私は小説だけでなく、こぼれ話みたいにふっと作家さんの日常がお知らせされるあとがきや、解説や、小説雑誌が大好きです。小説雑誌は断然yomyom。デザインも本当にかわいいので一回サイト行ってみてほしいし買ってみてほしい。電子なのでぜひ。)

https://www.shinchosha.co.jp/yomyom/

 

いつまでも話が逸れる。あの、『きみはポラリス』のすばらしさはタイトルに凝縮されてると思うのです。三浦さんのタイトルセンス本当にすごい。見上げればいつもそこにある、でも届かない。まばゆい光で無視できない。いつのまにか人生の指針になってたりする。そんないろんな思いが込められてきみはポラリスなんだなあと読んだあとに思います。

どの短編も大体静かで、自分たちしかいない時間を過ごしていて、だからそれが終わったあとの人生でも「かけがえのなかった瞬間」として思い出されるんだろうな、と思ったりするので、特に死体を一緒に埋める話がとても好きです私。

 

 

『図南の翼』小野不由美 

図南の翼 (となんのつばさ) 十二国記 6 (新潮文庫)
 

 https://www.shinchosha.co.jp/book/124059/

国を統(す)べるのは、あたししかいない! 恭国(きょうこく)は先王が斃(たお)れて27年、王不在のまま治安は乱れ、妖魔まで徘徊(はいかい)していた。首都連檣(れんしょう)に住む少女珠晶(しゅしょう)は豪商の父のもと、なに不自由ない暮らしを与えられ、闊達な娘に育つ。だが、混迷深まる国を憂える珠晶はついに決断する。「大人が行かないのなら、あたしが蓬山(ほうざん)を目指す」と――12歳の少女は、神獣麒麟により王として選ばれるのか。

十二国記シリーズの中で私が一番好きな話です。国が乱れて皆困ってて、でも昇山はしない(誰かふさわしい英雄が行くだろうと皆が思ってる)雰囲気に一石を投じる珠晶がサイコーにかっこいい。

 

この世界では、麒麟という生き物がいて、王は麒麟が選ぶんです。麒麟に選ばれた王が治める国は栄える。でも道に背くような治世を敷いた暁には麒麟が穢れ国は衰えていく。天意も離れ、麒麟は死にます。

種族や経済格差による差別、利権、中央政府地方自治の兼ね合い、他国との外交…シリーズ自体は頭を使うことも多い(1巻はなんとか苦しいかもしれないけど慶国が新しくスタートを切る瞬間まで読んでほしい)ですが、図南の翼はひたすらワクワク楽しいです。

十二国記公式サイト

https://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

 

珠晶がとにかく思い立ったら行動する、間違ったら謝る、どんな意見でも受け入れる、リーダーとして最高にかっこいい(怖すぎて周りが委縮することもあるけど)から読んで元気でます。

この国のことを本当に思うなら、自分にどんなに王になる可能性がないと思っても、昇山するべきでしょう、それが国民の義務では?少なくとも私は行ってから「私は行ったけど選ばれなかった、王になる以外の方法で国をよくするために頑張る」って言うわ。っていう姿勢と、昇山中に妖魔に襲われたとき、世間知らずな自分を恥じてすぐに行動を改めて教えを乞うところが特に好きです。

最初から最後まで疾走感が途切れない、本当に楽しい冒険小説。

 

※シリーズ最新刊の『白銀の墟 玄の月』は泰麒に村人が「お待ち申し上げておりました」って頭を垂れるシーンで号泣必至ですよね。

 

あと初版は講談社ホワイトハート文庫なんですけど、講談社文庫になったときにイラスト表紙じゃなくなったんですよ。でも新潮文庫で完全版刊行するタイミングでイラスト表紙に戻って、かつ背に文様入れられたの本当にすき。(今日は新潮社の回し者な気持ちかもしれない)

 

落下する夕方江國香織 

落下する夕方 (角川文庫)

落下する夕方 (角川文庫)

 

別れた恋人の新しい恋人が、突然乗り込んできて、同居をはじめた。梨果にとって、いとおしいのは健悟なのに、彼は新しい恋人に会いにやってくる。新世代のスピリッツと空気感溢れる、リリカル・ストーリー。

江國さんの本って装丁美しいですよね。これも文庫なのに金で箔押しされてた気がするんだけどどうだったかな。記憶違いな気がする。

私はこの三角関係に折り合いがつけられないのでこの本は読んだあと実家のリビングにずっと置いてた(自分の部屋にはもっていかなかった)思い出があります。

ちょうど無職の父がキャバ嬢と正月に失踪(実際は旅行だったらしい。三が日終わって帰ってきた。うける)した時期に読んだので、苦い思い出と、苦くても絶対に忘れてやらないという憎しみのようなものと、仕方のない人なのだというあきらめに似た気持ちと一緒にしまってある本です。

 

きらきらひかる』の方が、装丁は好きじゃないんですけど中身は好きかもしれない。

私たちは十日前に結婚した。しかし、私たちの結婚について説明するのは、おそろしくやっかいである――。笑子はアル中、睦月はホモで恋人あり。そんな二人は全てを許し合って結婚した、筈だったのだが……。セックスレスの奇妙な夫婦関係から浮かび上る誠実、友情、そして恋愛とは? 傷つき傷つけられながらも、愛することを止められない全ての人々に贈る、純度100%の恋愛小説。

うーん。これはもっと自分の現実から遠い気がする(こんなに人と深い関係を結べないな、私は。と思っている)から楽しく読めるのかなあ。

 

感傷に浸りながら『神様のボート』も読んでたと思う。

昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”――恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遥かな旅の物語。

そんな感じで江國さんは私をしんどいなあと思う現実からフィクションにさらってくれた作家さんだから心の奥のふだん触らないところにずっといる人、なイメージです。

とってもありがとうの気持ち。と、本に逃げること、本で旅ができることを12歳になる前の私に植え付けてくれてた我が家の教育に感謝、という気持ち。

 

チョコレート・アンダーグラウンド』アレックス シアラー 

チョコレート・アンダーグラウンド

チョコレート・アンダーグラウンド

 

「健全健康党」がなんと<チョコレート禁止法>を発令した!
そんなおかしな法律に疑問を抱いた、チョコレート大好き少年のハントリーとスマッジャーは、チョコレートを密造した。
しかし、健全健康党の「少年団」に密告され、スマッジャーは捕まってしまう。やがて再教育されたスマッジャーが戻ってきた。
彼は変わってしまった。闘志も革命心も感じられない。スマッジャーは洗脳されてしまったのだろうか…。

これはチョコレートの話でありますが、「これがないと健康で文化的な最低限度の生活を営めない」と思えるものを政府によって禁止された市民の戦いの物語でもあると感じます。

私はレジスタンスものが好きなので単純に命の危険を省みず「好きなものがないなんて死んでるのと同じだ」という勢いで駆けていくハントリーを思い出すと生きる勇気が湧いてきます。普通にめちゃくちゃかっこいいし、あの頃よりすこし大人になった今は、次の世代が生きやすい世の中にするために働いていきたいなあとすこし労働に前向きになれます。

 

悪が栄えるためには、善人が何もしないでいてくれればそれだけでいい

 

この物語では「どうせどっちに入れても変わらないでしょ」と思った大人たちの投票率が下がり、結果的に与党になったのがチョコレート禁止法をつくった政党なんです。

面白い小説だなあと思います。

 

虐殺器官伊藤計劃 

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:伊藤計劃
  • 発売日: 2014/08/08
  • メディア: 文庫
 

もう~~~~黒地に銀文字のカバーデザインがものすごく好きなので早川書房は復刻カバー出してほしい~~~。そうしたら買い足したいと思ってるので!そろそろ黄ばんできたからもう一冊買おうと思って紀伊国屋行く度にこのカバーしかなくて泣いてた~~~。

9・11以降の"テロとの戦い"は転機を迎えていた。
先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、
後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
米軍大尉クラヴィス・シェパードは、
その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、
ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……

彼の目的とはいったいなにか? 
大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは? 
現代の罪と罰を描破する、ゼロ年代最高のフィクション 

漫画『マージナル・オペレーション』好きな人は絶対好きな気がするというかもう読んでると思うのですが。

私はこの本が面白かったので大学で紛争解決とそれに伴う現地統治についての授業を取りました。

あとこのまえ家にいるとき、外は本当にさわやかな風が吹いているほがらかな陽気だったので虐殺器官の最後のシーンを思い出しました。

テレビで戦争のライブ中継を見ながら、宅配したバーガーをクーラーの効いた部屋で食べる。そして世界の終末を思うシーン。

ちょっと憂鬱な気分になってた(『何もかも憂鬱な夜に』ほどではない)のですが、主人公とちょっと状況似てるかも、と思うと明るい気持ちになれたから、物語の力は偉大だなと思ったりします。

 

 

『これはペンです』円城塔

これはペンです (新潮文庫)

これはペンです (新潮文庫)

  • 作者:円城 塔
  • 発売日: 2014/02/28
  • メディア: 文庫
 

 これも違うの~~~~。単行本だった頃の自動翻訳機が表紙の白地のカバーがよかったの~~~~という厄介オタクの気持ち。

叔父は文字だ。文字通り。文章自動生成プログラムの開発で莫大な富を得たらしい叔父から、大学生の姪に次々届く不思議な手紙。それは肉筆だけでなく、文字を刻んだ磁石やタイプボール、DNA配列として現れた──。言葉とメッセージの根源に迫る表題作と、脳内の巨大仮想都市に人生を封じこめた父の肖像「良い夜を持っている」。科学と奇想、思想と情感が織りなす魅惑の物語。

円城さんは実験的な手法で日本語の楽しさを気づかせてくれるから本当に好き。『後藤さんのこと』とか装丁もめちゃくちゃばちくそにかっこいいから買ってほしい。

私はちょうど3.11のころ円城さんを読んでたので、あとSFマガジンも読んでたので、円城さんは時代に即した、でもご自身の信念に沿ったお話を書く人、というイメージが強いです。

ポスト〇〇とか、〇〇年代以降とか、時代の境目にいる人で、時代の先端をいく人、という印象です。これは私が勝手に持ってるイメージの話なのですが。

だからちょっと新しい価値観を取り入れたいとか、頭を柔らかくしたいとか思うときは円城さんを読むんだと思います。

 

粋でかっこよくて必要とされたら務めを全うする、批判を恐れず自分を歩める作家さんだと思うので。

 

(『屍者の帝国』は本当に、刊行される世界にいられて幸せだと思った記憶)

 

 

『凍りのくじら』辻村深月

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 発売日: 2008/11/14
  • メディア: 文庫
 

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。

20代前半まで、いや違うか、たぶん去年までの私は凍りのくじらのスモールライトのシーンを思い返す度に力をもらっていました。

なんというか、辻村さんの描く女性主人公は良い具合に自意識過剰でどこにでもいそうな感じがとてもリアルで、だからその子たちが救われると自分もカタルシスを味わえるので、好きですし、単純にモチーフが好き。

これから死んでいく、薄暗い海に人知れず沈んでいく氷の下のくじらってとても幻想的で荘厳で美しいと思います。

今初めて気づいたのですが私以前ほど、この子に共感できなくなってます。

なぜだ?あんなに好きだったのに。自分ではどうにもできない事実に傷ついて、孤独を感じてでも他者を信じて飛び込んでいける強さを持ってる主人公が好きだったのになあ。

たぶんなんですけど、嫉妬です。私はこの子より10歳近く年上になったけど、こんなに必死に人と繋がろうと手を伸ばしたことはないし、……ていうかいいな!?この物語みたいに私にもスモールライト当ててくれよ!!!

 

(※たぶん少し疲れています。アフターコロナとか考える前に現状に疲れています)

(辻村さんご結婚の報を聞いたとき本当におめでたいと思ったこと、今後の作品が楽しみだと思ったこと、『かがみの孤城』を4冊持っていることは本当です)

(しばらく主人公が20代前半までの恋愛ものは読まないようにしようと思います…)

 

 

蹴りたい背中綿矢りさ 

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

  • 作者:綿矢 りさ
  • 発売日: 2007/04/05
  • メディア: ペーパーバック
 

高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。臆病ゆえに孤独な2人の関係のゆくえは……。世代を超えて多くの読者の共感をよんだ第130回芥川賞受賞作。 

冒頭からもう天才。場面展開から「鳴る」という表現、切り取り方が全部スタイリッシュで、内容とかじゃなく文章摂取するだけで元気が出てくる部類のアドレナリン小説。

 

最後、ベランダでにな川(この「蜷川」じゃない表記も好き。ハツの語彙に「蜷」は入ってないから「にな川」なの)の背中を足の親指で押してみる描写が本当に好き。

インストールの青空にはためくオレンジのパンツもすがすがしいの極みだったけど、この人は意図的に清涼感を出したり、とにかく読者の気持ちをコントロールできる文章が書ける天才だと思う。そして絶望ではなく爽快感やちょっと笑えて来ちゃうブラックな気持ちで終わらせてくれるから綿矢りさ一生ついていくって思ってます。

 

綿矢さんもご結婚されたとき私は本当におめでたいと思いました。

そして綿矢さんの場合は結婚しても作風が変わらなかったことにものすごく安心感を抱いてほんと一生ついていく、と思いました。

 

短い、誰にでもわかる文章でえぐるのがものすごく上手でしびれる作家さん。

別の作品ですけど、

「亜美ちゃんは美人」の冒頭

さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。

サイコーすぎんか?たった2文ですべてを語れるの天才すぎるし、この人の世界の捉え方は本当にえぐいけど優しいと思う。(捉えたものを切り捨てたりしないから)

一番の美人は名前にちゃん付け、で、「さかきちゃん」は名字にちゃん付けなの。この呼称もってきてるところも天才。

それで亜美ちゃんはいわゆるダメンズにばっかりひっかかるんだけど幸せってなんなんだろう、愛されるって、愛するって何なんだろう、って思考と「かわいそうだね?」って言葉が頭をぐるぐる回るめちゃくちゃステキな作品。

 

私は綿矢りささんより少し年下な状態で生きていられることをこの上ない幸せだと思っています。綿矢さんは「私たち」のために書いてくれてるって思えるからです。

こんなん書いたらご本人とその周辺には『勝手にふるえてろ』って思われそうだけど。

なんだか不思議と、綿矢さんの本は読むと元気が出てくるし疲れないのでやっぱり綿矢さん大好き、と思うわけです。

 

蹴りたい背中』で実際に蹴った(触れた)のはにな川くんの背中ですけど、ハツはきっとうだつの上がらない、リアルな世界に飛び込んでいく気概のない自分を蹴っ飛ばしてやりたいくらいの気持ちでもがいていて、自分を蹴りたいけどそんなこと構造的に難しいのわかってて、だから目の前にあるその背中を疑似的に蹴って紛らわそうとしてる、それさえも「ハッていうこのスタンス」って笑い飛ばしそうになっちゃう自分もいて、っていう自意識の乱れ、葛藤のただなかにいるのだというのがぎゅっと凝縮された文に詰まってる感じがして大好きです。

 

『袋小路の男』絲山秋子

袋小路の男 (講談社文庫)

袋小路の男 (講談社文庫)

  • 作者:絲山 秋子
  • 発売日: 2007/11/15
  • メディア: 文庫
 

高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。 

 これはサイコーが過ぎる話だし短いし薄いので皆に読んでほしいやつ。

絲山さんはこれ以外はなんか読むと悲しい気持ちになるんだけど(終わりを意識させる恋とか関係が多いからかなあ)、恋愛ものでもこれは別格にかっこいい。

表題作「袋小路の男」は二人称(わたしとあなたしか登場しない)の小説で、こういうのを珠玉の文章というのだろうか、と高校生の私が感動した話。

 

私達は指一本触れたことがない。厳密にいえば、割勘のお釣りのやりとりで中指が触れてしびれたことがあるくらい。手のなかに転がり込んできた十円玉の温度で、あなたの手が暖かいことを知った。

 

手のなかに~の後がもう最高すぎませんか。1円とかじゃなく、10円玉(だって銅製だから)なの。指が触れるとしびれるらしいということも、私は小説から教わりました。

で、こんだけ美しい恋愛を描いたあとに「小田切孝の言い分」(三人称で「袋小路の男」を描いたもの)を持ってくるのが本当に天才。

恋愛は双方向のもので、そして多少痛いらしいということも私は小説から教わりました。それから、人と人との関係が10年以上続くものなら、それは何であれあったかい気持ちを介していると信じてもいいのかな、ということも小説は教えてくれました。

最後に「アーリオ・オーリオ」持ってくるのも本当に憎い演出、大好き。

誰かを大切に想う気持ちは尊いもので、そしてそれは絶対相手に伝えた方がいい、と教えてくれたのもこの小説。

こんなに短くて、ワンコインで買えるのに、ものすごい世界の真理みたいなことを教えてくれて、小説って本当に最高と思った記憶。

 

『まにまに』西加奈子

まにまに (角川文庫)

まにまに (角川文庫)

  • 作者:西 加奈子
  • 発売日: 2019/02/23
  • メディア: 文庫
 

 西加奈子さんのエッセイ集~~~。私は去年、中村文則さんと木皿泉さんと西加奈子さんのエッセイを買ったのですが、どれも最高、元気でる。日本語が読めて幸せ、サンキュー人生って気持ちになれる。

 

西さんはお話されると関西弁なので私はデビュー当時こわい関西のお姉ちゃんだなと思ってた(『あおい』と雰囲気につかないんだけど??と不思議に思ってた)のですが、

あれから10年以上、20年近く?経った今は言葉の違いは怖くないし、言葉の奥に優しい気持ちがあるって気づけるようになった

 

(実生活で嫌でも人と関わらなきゃいけない仕事に就いた成果である。学生時代の私が今の私を見たらびっくりすると思う。今の自分も、過去の自分も嫌いじゃないし、未来の自分もとっても楽しみ、と思えるようになったから、とても今生きやすいです)

 

ので、『あおい』は紛れもなく西加奈子さんから生まれた作品(西さんの言葉と地続きの作品)だと思えるようになりました。

西さんにも憧れる、西さんがいる世界に産んでくれてサンキューって親に思う。

 

『春風伝』葉室鱗

春風伝 (新潮文庫)

春風伝 (新潮文庫)

  • 作者:葉室 麟
  • 発売日: 2015/09/27
  • メディア: 文庫
 

長州藩士・高杉晋作。本名・春風。攘夷か開国か。国論二分する幕末に、上海に渡った晋作は、欧米列強に蹂躙される民衆の姿を目の当りにし、「革命」に思い至る。激しい気性ゆえに脱藩、蟄居、閉門を繰返しながらも常に最前線で藩の窮地を救ってきた男は、日本の未来を見据え遂に幕府に挑む。己を信じ激動の時代を駆け抜けた二十八年の濃密な生涯を壮大なスケールで描く本格歴史小説

 私は単行本のレザックっぽい地に薄めに印刷された表紙デザインが好きでしたーーーーこんな青空じゃない~~~私が読みながら思い浮かべてたのは曇天~~~~~解釈違い~~~~~ってなるけどそれもこの本が好きゆえなので許してほしい。そしてこれは本当に高くても単行本で持ってた方がいい本だと思うよ、だから次の引っ越しでも捨てないように、と未来の自分に向けて。

 

高杉晋作の創作小説なので、本筋とはまったく関係ないのですが私がものすごく好きなのは、病床の高杉が現地妻と庭の桜を見ながら話すシーンです。

桜がきれいだね、という話をしつつ「晋作さまは桜が好きですか」というような問いかけを妾がして高杉は「好きだ。桜はあなたに似ている」という感じで答えるのですが、彼女は胸中で「彼が一等好きなのは梅の花じゃ」と考えて、梅の花と本妻の雅(萩から出てこられないから、病床の高杉を見舞えない)を重ね合わせて、自分はこの人の心の一番にはなれないけど、近くにいることはできる、と条件つきの幸せをかみしめるのです。そのうえで、そんな複雑な気持ちなんて押し殺して、高杉が一番好きなのは梅の花って知ってることも飲み込んで「ありがとうございます」と嬉しそうな表情作るんです。

 

なんでこれを読者が気づけるかっていうと、小説の冒頭で高杉が「梅の花のように、春の訪れを告げて疾風怒濤のごとく去る、そんな人になりたい」と話す場面が出てくるからです。

 

読者皆、高杉が梅の花大好きなこと知っていて、でも作中世界では高杉の行動や思想にこそ注目は集まりますが彼の嗜好にまで興味がある人は限られるから、それを知ってる人は少ない。

 

彼女はその嗜好を伺い知るくらい高杉の近くにいながら、だからこそ一番の座に踏み込めないことを誰より理解しているのです。

 

っていう枠組みをたった数文で成立させてしまう葉室さんがすごい。

し、地方から歴史を紡ぎたいって確固たる意志で執筆をつづけた葉室さんを本当にかっこいい大人だと思う。

今床に本を積んでしまってて春風伝が取れないのでものすごくふがいないのですが簡単に説明をして自己満足してみました。

 

 

『死にがいを求めて生きているの』朝井リョウ

死にがいを求めて生きているの

死にがいを求めて生きているの

 

植物状態のまま眠る青年と見守る友人。美しい繋がりに見える二人の〝歪な真実〟とは? 平坦で争いのない「平成」の日常を、朝井リョウが現代の闇と祈りを込めて描く傑作長篇。

この世代の雰囲気を切り取ってえぐって文章にすることを使命にしてるのかってくらい仕事人のイメージが強い作家さん。

というか私は朝井さんのご結婚の報が一番驚きました。

朝井さんも声優の斉藤さんも友人ふたり介せばたどり着くような世代で環境で育ってきたので個人的にめちゃくちゃ焦った。え、朝井さん結婚すんの?みたいな。

そう思う(置いていかれるとか、マウント取り合うとか)傾向それ自体が朝井さん世代というか、この世代特有のものなのかもしれないなと思ったりするのですが。

 

あんまり朝井さん作品を読んでこなかったのですが以前yomyomで掲載された「それでは二人組をつくってください」の短編(『何者』のスピンオフらしい)が本当にすごくて、この人の作品読まず嫌いしないで読もうと思った。

だって「孤独」を描くとき「ふたり」から始める考え方がスマートすぎませんか?

 

そこらへんただよってる空気を言葉にして、皆が目を背けてる「排除」とか「ボーダー」とか「分断」とかを差し出すのが上手。そしてそれを道具に対立をあおる、まではしないから良い人だと思う。

 

そんな感じで『どうしても生きてる』もいい。この人は機械的な女性を描写していく人、というイメージが私のなかである(あくまで自分の感覚なのだけど思考や文がリアルじゃないと思う。行動の部分は限りなくリアルだからギャップがすごい)のでその分、主人公たちに引っ張られることなく安心して読めます。

この行動わかるけど、こうはなりたくない、なってたらやだなあと思うから、よりよく生きねば、と思わせてくれる。明日からもちゃんと生きよう。

 

 

 

メサイア 警備局特別公安五係』高殿円 

メサイア 警備局特別公安五係 (講談社文庫)

メサイア 警備局特別公安五係 (講談社文庫)

  • 作者:高殿 円
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫
 

散れ、サクラのごとく。--それがこの国のスパイの流儀。
「戸籍も失い、過去も失った俺の唯一の光。それはお前なんだよ、珀」。

世界から軍隊が消えた時代。しかし戦争は諜報戦への姿を変えていた。家族を惨殺され一人生き残った海棠鋭利、兄と生き別れた御津見珀は、戸籍を剥奪されたスパイ集団、警備局特別公安五係、通称「サクラ」にスカウトされる。桜のように潔く散る、それが彼等の流儀。舞台・映画化の人気シリーズ原作。 

私はジャニーズのシンメとかいうシステムが大好きオタクなので高殿さんのメサイアはこんなに面白い小説があっていいのか、と歓喜の雄たけびをあげて読みました。

これは読むとテンションぶちあがるから休日の午前におすすめ。

もしくは夕方6時ごろにおすすめ。

ただでさえ特殊部隊大好きなのに(福田和代さんの『広域警察 極秘捜査班 BUG』が!ついに新潮文庫Nexで刊行されたことが嬉しすぎて去年本屋で3冊買いました。これは単行本じゃなくてNexだろう!?ってyomyomのときから楽しみにしてた!!)、メサイアは窮地に陥ったとき、相棒だけが助けに行っていいとかいう制約つけるから本当にたまらん。

これはオタクの血が大いに騒ぐ本です。ミュもやってるけど私は小説がとても好き。

 

こんな感じで好きな本のこと思い出すとものすごく元気になれるから私は能天気野郎で幸せ者だなあと思います。

 

あと最近はよく新約聖書のタラントンのたとえとか種を蒔く人のたとえとか思い出したりします。イエスさま「はっきり言っておく」っていいがち。

ファンタジー小説読んだり、海外の小説読むときに宗教の知識(キリスト教だけでなく)はあるとちょっとお得な気分になるからすき。

 

世界から猫が消えたならって本あるけど、私は今日も本があること、それを読めること、頭の中に本の森が広がっていること、人生の大事な局面でいろんな先輩たち(本の登場人物や作家さん)の言葉が選択肢を広げてくれることに幸せを感じています。

 

ぜったい未来は楽しいよ!と信じて今日も中村文則さんの『逃亡者』を読みまーす!